濵田 真里

電車の中でバイスタンダーとして行動した話

  東京・世田谷区の小田急線の車内で起きた刺傷事件の4日後に、電車の中である経験をしました。電車の席に座り、扉が閉まったとたんに、同じ車両の遠くの席に座っていた年配女性が、彼女の前の席に座っている人に向かって怒鳴りだしたのです。   「日本では電車は順番に並んで入るの!外国人かもしれないけど、日本ではそうなの!わかった!?はいって言いなさい!」という趣旨のことを繰り返し大声で怒鳴りつけていました。私は公共の場でこんなに大声で怒鳴る人を初めて見ました。   車内はその怒鳴り声以外は何も聞こえないほど、シーンとしていました。   私の席からは怒鳴られている人は見えなかったのですが、「はいって言いなさい!」と何度か女性が言った後、「はい…」という声が小さく聞こえました。この一連のやり取りはあまりにも高圧的で、聞いているこちらまで息を潜めてしまうようなものでした。   最初は呆然とその様子を見ていたのですが、「はい…」という声が聞こえた時に、「ここで誰かが声をかけなければ、言われた人は本当に傷ついてしまう」と思い、怒鳴り声がおさまった後に、言われていた人のところまで行きました。   席にいたのは小学生の男の子3人で、こんな小さな子たちにあんな言い方をしていたなんて、と衝撃を受けました。子どもたちに小声で「大丈夫?」と声をかけると最初は黙っていたけれど、「怖かったよね、別の車両に行く?」と聞くと頷いて、みんなで移動しました。   今優先することは子どもと怒鳴った人を離すことだと思い、女性に絡んだらだめだと思って一度も見ませんでした。   その子たちは「外国人」と言われていましたが、日本で生まれ育っている可能性もあります。子どもたちと少し話をしたら、全員日本語を話せました。   見た目だけじゃその人の背景なんてわかりませんし、行動を指摘する時に「外国人だからわからないだろうけど、日本のルールを守れ!」と見た目で一方的に決めつけて言うのはおかしいです。   もし、本当に子どもたちが電車に乗る順番を守らなかったのだとしても、「電車は並んで乗りましょう」と伝えればいいだけで、高圧的に人前で怒鳴り散らしたり、人種のことを言ったり、「はいって言いなさい!」と何度も返事を強要する必要はありません。   はたしてこの女性は、相手が成人男性だったり、同じ外国人でも白人男性だったりしたら、同じような態度をとったでしょうか。この行動は、自分が優位な立場に立てる(と彼女が思った)「外国人の子ども」だったからしたことではないでしょうか。   子どもたちは今後も、今回のように「外国人」と決めつけられ、理不尽な目に遭うことがあるかもしれません。そんな時に、周りに動いてくれる大人がたくさんいてほしいと強く思いました。   車両の席は人で埋まっていましたが、誰も動く気配がありませんでした。こういう時に自分ひとりじゃなく、一緒に動いてくれる人がいればいるほど心強いです。   そして、私が今回動けたのは、第三者介入(バイスタンダー)の勉強と練習をしていたことが大きいと思いました。「バイスタンダー」とは、医療用語では応急処置や心肺蘇生といった、救助に携わった第三者のことを指しますが、ハラスメントや差別の文脈では、「ハラスメントや差別、性暴力などが起きた時、その現場に居合わせた第三者のこと」という意味で使われています。   何らかの被害を受けている時、 受けそうな時に周りの人が介入することで、事態を悪化させない、予防するといった効果があり、“差別の抑止力”として注目されています。   たとえば、人命救助のためのAED(自動対外式除細動器)を使うための研修があるように、AEDの存在を知っていても、その使い方を学ばなければ必要な場面で役に立ちません。   同じように、突然目の前でハラスメントや差別などが起きた時に、すぐに動ける「瞬発力」をつけるためには訓練が必要です。防災訓練や避難訓練のように、普段から練習しておくことで、いざという時に役立つ力を発揮できるのだと思います。   バイスタンダーのスキルは、他人のためにももちろん使えますが、自分に何か起きた時の行動の選択肢が増えるので、自分を守るためにも使えるスキルです。   私はこれまで目の前で当然起きたことに、迅速に対応できずに後悔することが多かったのですが、今回は練習していたおかげで状況判断しながら行動でき、後悔しないですみました。   相手のためももちろんありますが、自分のためにも行動して良かったです。バイスタンダー研修が日本にも必要だとずっと思っていたのですが、なかったので自分で作り、最近やっとローンチしました。   改めて、こういう場面で一緒に動ける人を増やしたいからやりはじめたんだと実感しました。引き続きバイスタンダーとして介入方法を勉強し、自分の安全を守りつつできる範囲で行動していきたいと思います。ぜひ一緒に学び、行動してくださる方がいたら嬉しいです。   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜   バイスタンダー・ワークショップの開催情報はこちら   たとえば、道端で誰かが絡まれて困っている時。 電車で具合が悪そうな人がいる時。 飲み会の場で回答に困る質問を同僚がされている時。 ハラスメントじゃないかな? と思う言動を受けている人がいる時。 あなたはどんな行動をしますか?   こういった場面に出くわした時、とっさに体が動かなかったり、かける言葉が見つからなかったりして、何もできなかった……そんな経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。 そして、後になってから「ああすればよかったかもしれない」、「なんで一言かけられなかったんだろう」、「何かできることがあったんじゃないだろうか」というモヤモヤを抱えられたのではないでしょうか。   このワークショップでは、目の前で困っている人がいる時に、何らかの行動を起こすための知識の共有と実践を行います。 知識として知っていても、行動できるかはまた別ものです。   私たちは、このバイスタンダー・ワークショップを通じて、目の前に困っている人がいる時に行動するための緊急対応マニュアルとしての考え方と、実践の場を提供したいと考えて立ち上げました。 ワークショップでは、知識の共有と、それを使って3つのロールプレイを行うことで、実践で使える知識に落とし込みます。 1人ひとりが一歩踏み出す勇気を持つことができれば、社会はもっと優しいものになるはずです。 ぜひ、ご興味のある方はご参加ください。   【こんな方におすすめ】 ・目の前で困っている人がいる時に、一歩踏み出せる自分になりたい ・「あの時、何かできたかもしれない」という後悔をしたくない ・目の前で困っている人がいる時に、行動するための知識がほしい ・第三者介入をするための様々な方法について知りたい ・第三者介入の知識を使える、実践の場がほしい
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